昨今、地球温暖化の傾向にあり、都市部を中心に夏の気温が年々上がってきております。これに伴い、
高齢者や子どもをはじめ、熱中症により救急搬送されたり、最悪の場合死に至るといった報道を目にする
ことが多くなってきました。労働の現場においても例外ではありません。ここでは、労働の現場における熱
中症対策について取り上げようと思います。
熱中症とは
●高温環境下で、体内の水分や塩分などのバランスが崩れたり、体温の調整機能が破綻するなどして、
発症する障害の総称
●死に至る可能性の病態
●予防法を知っていれば防ぐことができる
●応急処置を知っていれば救命できる
(環境省熱中症環境保健マニュアル2011年5月改訂版より引用)
医学的に見れば、症状などにより次のように分類されるそうです。
熱失神(重症度T度)
長時間暑い中で活動すると、突然の意識の消失(めまい、一過性の失神)が発症。体温は正常であるこ
とが多く、発汗がみられ、脈拍は徐脈を呈する。通常は数十分から数時間で回復する。
A 熱けいれん(重症度T度)
大量の発汗後に水分だけを補給して、塩分やミネラルが不足した場合に、こむら返りといったけいれん
が発症する。
B 熱疲労(重症度U度)
多量の発汗に水分・塩分補給が追いつかず、脱水症状になったときに発生する。末梢の循環が悪くな
り、極度の脱力状態となる。体温は39℃程度まで上昇し、発汗がみられるが、皮膚は冷たい。
C 熱射病(重症度V度)
高度の意識障害が生じ、体温が40℃以上まで上昇するが、発汗はみられず、皮膚は乾燥している。
重症度は、T度では現場の応急処置で対処できる程度、U度では救急搬送を必要とする程度、V度は
入院して集中治療を必要とする程度の症状です。
近年の大阪の夏の気温と、職場における熱中症の発生状況
近年の大阪の夏の気温を平年値(1981年〜2010年までの30年間の平均値)という指標でみると、最高
気温が30℃以上の真夏日が73.2日、最高気温が35℃以上の猛暑日が11.6日、最低気温が25℃以上
の熱帯夜が37.4日となっています。2010年の猛暑では、真夏日82日、猛暑日31日、熱帯夜55日が観
測されました。
熱中症による労災の療養補償給付件数と、労働者死傷病報告書(休業4日以上)の提出件数をみると
以下のようになっています。
労働者死傷病報告書(休業4日以上)提出件数
年 |
平成18年 |
平成19年 |
平成20年 |
平成21年 |
平成22年 |
平成23年 |
全国件数
(死亡件数) |
269
(17)
|
229
(18)
|
265
(17)
|
146
(8)
|
683
(47)
|
382
(18)
|
大阪府内の件数
(同上)
|
20
(2)
|
25
(1)
|
15
(0)
|
8
(1)
|
33
(1)
|
16
(1)
|
労災療養補償の給付件数
年 |
平成18年 |
平成19年 |
平成20年 |
平成21年 |
平成22年 |
平成23年 |
療養補償給付件数(大阪府内) |
146 |
245 |
273 |
134 |
586 |
240 |
熱中症による労働災害の件数を業種別にみると、療養補償給付件数では建設業と製造業で全体の
約4分の3、休業4日以上の件数では建設業と製造業で全体の約2分の1を占めています。
また、気温との関係でみると、もちろん気温が高くなるにつれ発生が多くなる傾向がありますが、気温より
も重要視されている指標がWBGT(湿球黒球温度・wet bulb glove temperature)値です。
WBGT=0.7×湿球温度+0.3×黒球温度(屋内または屋外で太陽照射がない場合)
WBGT=0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度(屋外で太陽照射がある場合)
概ね気温30℃、WBGT値25℃くらいから熱中症の発生が見られ、気温33℃、WBGT値28℃くらいから
は熱中症要警戒レベルといえよう。ヒトの暑熱に対する感じ方は相対的なものなので、暑さにどれだけ慣れ
ているか、というのも大きな要素となる。前々日・前日に比べて急に気温が上昇したときや、お盆休み明け
で一定程度以上暑いときは特に熱中症が発生しやすいので要注意です。「高温注意情報」、「異常天候早
期警戒情報」などの気象情報を気象庁HPで入手しておくとよいでしょう。
職場における熱中症の予防対策
@ 作業環境管理
○屋外作業では、風通しの良い所に日よけを設ける。
○屋内作業では、冷房により室温・WBGT値を調整する。
○できるならば、ミスト発生装置を利用するか散水により気温上昇を抑える。
○涼しい場所に休憩場所を確保(ただし、涼し過ぎてもダメ。作業環境との気温差は概ね7℃未満がよい
とされている。)
○氷、冷たい飲み物、おしぼり等を用意(冷たい飲み物は、ナトリウム入りのスポーツドリンクが望ましい)
○作業場所の気温・湿度・WBGT値を適切に把握し、管理する。
A 作業管理
○原則一人で作業させない。やむをえない場合は、責任者が定期的に巡視するなどの措置をとる。
(作業時だけでなく、軽度の熱中症発生後木陰などの涼しいところで休息させる場合も同じ。)
○休憩を頻繁にとり、水分補給をこまめに行う。
○作業服はできるだけ通気性のよいものを。
○気温が急上昇しそうな日の作業強度、作業継続時間などには特に配慮する。
(暑さに慣れていない場合が多く、熱中症の発生が目立って増える。)
B 健康管理
○普段の健康管理
・糖尿病、高血圧、心臓病や慢性の腎臓病などの持病がある作業者は、産業医やかかりつけ医と相
談の上、暑熱環境下での作業について指示を受けておく。
・普段から睡眠時間を十分にとる
・前日の晩の深酒は極力避ける。
・朝食を欠かさず摂り、栄養不足にならないように注意する。
○始業前の健康チェック
○仕事中の健康チェック
・作業者個々の体重、体温、脈拍数、心拍数を把握できるようにし、異常が見受けられる場合は作業
を中止する。
以上のことに留意して、節電も求められる来たるべく暑い夏を、できるだけ労働災害の発生が少なく抑
えられ、我々個々人が健康を維持して乗り切れるように日々暮らしてまいりましょう。